ディンゴのオーストラリアへの到来年代

 ディンゴ(Canis lupus dingo)のオーストラリアへの到来年代に関する研究(Balme et al., 2018)が公表されました。ディンゴ完新世中期に東南アジア方面からオーストラリアへと到来した、と推測されています。完新世のオーストラリアは他の島・大陸とは陸続きではないので、人類がディンゴをオーストラリアに導入したと考えられています。ディンゴのオーストラリアへの到来は、フクロオオカミ(Thylacinus cynocephalus)などの動物の絶滅の一因になった、と推測されています。

 ディンゴのオーストラリアへの到来年代については、おもにディンゴが出土したと考えられる堆積層の年代測定結果と、遺伝学的な推定分岐年代に依拠していました。これまで、ディンゴの遺骸が直接年代測定されたことは少なく、その年代はほとんどが1000年前頃以降となっています。例外的に、オーストラリア南部のナラーバー平原で発見された1頭のディンゴの遺骸が、較正年代で2381〜1931年前頃と推定されています。遺伝学では、ディンゴがオーストラリアに到来した年代は、ミトコンドリアDNA(mtDNA)解析結果から18000年前頃とも5000年前頃とも推定されています。前者は堆積層を測定した考古学の推定年代とは大きく離れていますが、後者の方は近く、ディンゴのオーストラリアへの到来年代を5000〜4000年前頃と推定するのがじゅうらいの有力説でした。

 本論文は、ナラーバー平原のマドゥーラ洞窟(Madura Cave)で発見されたディンゴ2頭の遺骸の年代を放射性炭素法で測定しました。その結果、較正年代では、1頭が2143〜1932年前、もう1頭が3348〜3081年前となりました。これは、ディンゴのオーストラリアへの推定到来年代としては、じゅうらいよりも新しくなります。本論文は、ディンゴは人類の家畜として急速にオーストラリアに拡散したのではないか、との見解を提示しています。

 ディンゴは、単に交易の結果オーストラリアに導入されたのかもしれませんが、インドからオーストラリアへの遺伝的流動が4230年前に起きた、との見解も提示されているのは注目されます(関連記事)。ディンゴの直接的年代とこの遺伝学的な推定年代にはまだ1000年ほどの違いがありますが、遺伝学的な推定年代には幅がありますし、ディンゴの年代がもっとさかのぼる可能性は低くないと思います。ディンゴをオーストラリアに導入した人々が、オーストラリアに定住して先住民集団と混合した可能性も考えられます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。

生態学ディンゴがオーストラリアに到達したのは、これまで考えられていたより後のことなのか

 野犬の1種であるディンゴがオーストラリア南部に到達したのは3348〜3081年前であり、これまでの推定年代より最近のことだったとする研究報告が、今週掲載される。

 今回、Jane Balme、Sue O’Connor、Stewart Fallonの研究チームは、オーストラリア南部のナラーバー平原にあるマドゥーラ洞窟で見つかった2頭のディンゴの指先の骨の化石試料を選び出し、正確な放射性炭素年代測定法の1つである加速器質量分析法(AMS)を実施し、ディンゴが、これまでに複数の研究で推定されていた5000〜4000年前という範囲よりも後の、3348〜3081年前にオーストラリア南部に存在していたことを明らかにした。

 オーストラリアと東南アジアを結ぶ陸橋はないため、ディンゴが人間から離れて単独でオーストラリアに到達したとは考えにくい。今回の研究で得られた知見は、ディンゴが先住民のペットとして船に乗ってオーストラリアに到達した可能性があり、そのため、ディンゴの存在は、人間がオーストラリア本土の外からやって来たことを示す証拠と言えることを示唆している。また、ディンゴが人間のペットであったため、これまで考えられていたよりも早期にオーストラリア全土に広まった可能性があり、ディンゴがオーストラリアに到達した時期に関する従来の推定を修正する必要があるかもしれない。

 ディンゴのオーストラリアへの到達はフクロオオカミを含む一定数の動物種の絶滅と関連している可能性があるため、ディンゴの到達時期の解明を進めることが重要だと、研究チームは述べている。

参考文献:

Balme J, O’Connor S, and Fallon S.(2018): New dates on dingo bones from Madura Cave provide oldest firm evidence for arrival of the species in Australia. Scientific Reports, 8, 9933.

https://dx.doi.org/10.1038/s41598-018-28324-x